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「トップ・ハット」の恨みvideo

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世の中に、DVDというものが普及して、アステア映画を見ることは、本当に簡単なことになった。(一部に見にくいものもあるが、「有名な作品」を見るのにほとんど苦労は無い)簡単ばかりか、安価に見られることが、非常に素晴らしいと思う。

私は、中学生からアステア・ファンをやっているが、「トップ・ハット」を見たのは成人してからである。これは文字通り、簡単には見られるものではなかったからだ。
考えたら、私くらいの世代が、一番アステアに触れるのに苦労した世代ではないだろうか。アステアのリアルタイムの時代には乗り遅れたくせに、ビデオ・DVDの本格的な普及前にはアステアが好きになってしまったのだから、空白の時代が大きいのである。(家に映写室を持ち、海外からフィルムを買い付けて見る、などという選択肢は私には無かった)

私は、好きになったものには、結構マメな方で、「どこぞでアステアの映画を上映する」というような情報も探していたのだが、学生時代には「ザッツ・エンタテインメント」のシリーズくらいしか、劇場で見ることはできなかった。「ザッツ」は、私の「動くアステア」のすべてだった。
私が、アステア映画のほとんどを見られるようになったのは、家庭用ビデオが相当普及してからのことだ。

家庭用のビデオソフトが、ボチボチ巷に現れ始めた頃、ビデオ一本は1万円以上するのが普通だった。みんな、前年封切りの映画とかを、1万いくらで買っていたのである。
「家庭用映画ソフト」が、徐々に認知されてくると、新しい映画だけでなく、「往年の名画」も発売されるようになった。そして、ある日私は、「トップ・ハット」が販売されているのに出くわした。

店頭で見つけたときには、本当に震えるような思いだった。「トップ・ハット」と言えば、アステアの代名詞であり、私にとっては、作品の存在自体が伝説みたいなものだった。
しかし、私はせっかく見つけた「トップ・ハット」を買わなかった。
正直、1万いくらのお金が、私には痛かったのである。それに、存在を見つけた以上、「中古屋で安く買えるかも」「レンタル・ビデオにも出るかも」という可能性も浮上するわけで、私は「とりあえず、急いで買う必要なし」と結論したのだ。
半分は、「ケチケチ根性」であったが、半分は「廃盤にならない。失われない」という自信と確信を持っていたためでもある。

そうやって「あそこに売ってるぞ」という情報を持ったまま、結構な時が過ぎたのだが、ある日、私が「買わなくてよかった!」と叫ぶ日が来た。
TVで「トップ・ハット」放映が決まったのである。水野晴郎氏が解説する深夜の番組だった。
私は、もちろんいそいそとビデオをセットし、翌日の朝を楽しみに寝たのである。ナイター中継もからまないことを確認し、特に「安全策」もとらずに普通に予約録画を設定した。
ところが、翌日ビデオを見てみたら、臨時ニュースで「トップ・ハット」は途中からぶった切られていた。にっくき「臨時ニュースのネタ」は、湾岸戦争であった。

私の不確かな記憶によれば、後日「トップ・ハット」は改めて放送されたのではなかったかと思う。
しかし、怒り心頭の私は、その日に「トップ・ハット」を見ないでは、到底一日を終えられない思いになっいた。
考えたら、中学生の頃から、延々「お預け」だったのである。その、悲願の「お預け解除」が、裏切られたのである。やってられねえや、と思った私は、14,307円をば出して、例のビデオを買って来てしまった。

懐が痛かろうが、怒り心頭であろうが、「トップ・ハット」は素晴らしかった。もっと早く、一万いくら出してればよかったなあとも思った。思ったけど、経済的には打撃であった。
最近では、アステア作品のDVDは、うまくいくと1作500円くらいで買えるものもあるようだが、この時代に生まれた世代の方を、本当にうらやましく思う。

【補足】
「トップ・ハット」を放送した水野氏の番組では、当初アステア&ロジャース映画を、ほんの数本放送する予定だったのだが、1本目の放送後に、あまりにも大きな好評の声が届き、局側が驚いて、RKOのアステア映画の8作連続放送に踏み切った。もちろん私は、すべての作品をビデオに録画した。
しかし、私よりもお金のあった大人のアステア・ファンは、1本1万円以上するアステア&ロジャース作品のビデオをそろえていたのだろうと思う。そういう方たちの中には、「買うんじゃなかった!」と思った方もおられたのではなかろうか?

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