フレッド・アステアとは

アステアの「ラン・アラウンド」

更新日:

ラン・アラウンドとは?

ラン・アラウンドとは、アステアの舞台時代に、アデール&フレッドの当たり芸(?)だったものである。
こちらの記事:ラヴ・レター にも少し書いているが、通称「プカプカドン」と呼ばれ、エドワード・ロイス創案によるものだ。

舞台「ラヴ・レター」で、初めて披露されたそれは、アデールとフレッドが踊っているうちに、いつしか円を描いて舞台を回り始め、音楽はそれに合わせて「プッカプッカプッカ」という音とリズムになり、最後には二人はそのまま舞台からリズムに乗って走り去る、というものである。

これは、アステア姉弟が大当たりをとった振り付けであり、どんなにお客が乗らないステージでも、ラン・アラウンドさえくり出せば、客席からは歓声が沸きあがったという。

しかし、現在のアステア・ファンからすると、「それって、そんなに良かったわけ?」とつい思ってしまう。
大体が、単に走っているだけで、「踊り」とも言い難いものであって、「そう大騒ぎするようなものか? アステアのものすごいステップの方がウケるに決まってるじゃないか」などと思わずにはいられない。
何分、こちらはアデール&フレッドの「ラン・アラウンド」を見たことが無いので、「本当に魅力があったのかどうか」が疑わしく感じられるのである。だって、文字で説明されているのを見ると、割と他愛無い演出のように思えるからだ。

しかし、現実には、アデール&フレッドの「ラン・アラウンド」は、ブロードウエイで無敵だったばかりでなく、海を渡ったイギリスでも大うけしている。イギリスでは、ナイトクラブで真似をする人たちが続出したのである。大きな魅力があったことは間違いない。

アステア自身によれば、受けるかどうかの鍵になるものは、「引っ込むタイミング」だという。また、その魅力は、「アデールの喜劇センスに負うところが大きい」とのことである。
そうだとすれば、アデールはかなり天才的に、「観客を喜ばせるナニモノカを知っていた人」なのだろう。アステア姉弟のラン・アラウンドは、何かことさらに面白おかしい様子とか、特殊なフォームで行うというものではなく、本当に「ただただランでアラウンド」し、それだけで魅せるものなのだから。

しかし、アデール&フレッドを見てない私の無責任な想像では、
「それは、今のブロードウエイでは通用しないんじゃ……?」
と思えたりもする。あの時代だから、通用したものではないのだろうか?
いや、それとも、アデールが蘇って、愛嬌いっぱいで舞台を回り始めたなら、今でも観客は熱狂するのかもしれない。アデールは、21世紀の観客のツボも見抜き、外さずに楽しませてくれるのかもしれない。

アステアは、映画でもラン・アラウンドを披露してくれている。
正統派のラン・アラウンドは、「踊る騎士」の遊園地のシーンで見ることができる。フレッドと、グレイシー・アレンが、回り舞台みたいなところを延々ぐるぐると回るのだが、正直、私は「アステアのラン・アラウンド」というものを知らずにこの作品を見て、目を見開いてぐるぐる走り続けるグレイシーの姿にかなり奇異なものを感じた。一緒に走るフレッドも、特に良いとは思わなかった。「ちょっと不思議な演出だなあ」という思いしか持たなかったシーンである。
アステア自身、このラン・アラウンドはうまくいかなかったと述懐しているが、もしも、あれをアデール&フレッドでやったなら、映画であってもすばらしかったというのなら、見られなかったことが残念である(「踊る騎士」は、アデールをヒロインにする案があったのだ)。

もう一作、「変形版のラン・アラウンド」というべきものが、「躍らん哉」で見られる。
公園で時間をつぶすアステアとジンジャーが、ローラースケートを始め、ローラースケート・タップを披露した後に、スケート場(?)をぐるぐると回り始め(曲は、速いテンポになるが、プッカプッカプッカではない)、ポーズを決めたまま芝生に倒れこむ、というものである。
映画の公開順でいくと、「躍らん哉」の次作が「踊る騎士」であり、どちらも1937年封切りである。(なぜ、この時期にラン・アラウンドが続いたのだろう?)

私の個人的な好みもあるかもしれないが、二作のラン・アラウンドを比べると、「面白い」という意味でも、「魅力的」という意味でも、「躍らん哉」が「踊る騎士」を上回っていると思う。
よりオリジナルの「アデール&フレッドのラン・アラウンド」に近いものよりも、変形版の方が良い結果になっていると私には思われるのだ。
しかし、これは振り付け上の問題なのか、グレイシーとジンジャーの違いによるものなのか、それともほかの何かの要因によるものなのかということになると、私には何とも判断できないのである。
(グレイシーとジンジャーならば、コメディエンヌとしてアデールに近いのはジンジャーだとは思うが……)

-フレッド・アステアとは

Copyright© 夜も昼もアステア! 二号館 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.